Futures Japan HIV陽性者のためのウェブ調査

調査結果

9.健康管理・福祉について

抗HIV薬の服用(ART)

抗HIV薬の服用でウイルス量を継続的に検出限界以下にすると、他者へのHIV感染がゼロになること(TasP)を知っているかどうかたずねたところ、85.4%が「よく/まあ知っている」と回答しました。質問の仕方が異なるので直接比較しづらいのですが、MSMを対象とした同様調査結果(樽井他, LASH調査報告書, 2017)では43.0%、一般市民を対象とした同様調査結果(内閣府政府広報室, 「HIV感染症・エイズに関する世論調査」の概要, 2018)では33.3%が「知っている」となっており、MSM層や一般市民に比べてHIV陽性者ではTasPはとてもよく知られていることが示唆されました。

第1回調査時より抗HIV薬の服用者は少しだけ増加していました(図9-1)。服用者の内服回数については第1回の調査結果に比べて第2回の調査結果では、1日1回内服が約6割→8割強と増加し、一方で1日2回内服は4割→2割弱と半減していました(図9-2)。飲み忘れ回数は第1回調査結果とあまり変化なく、過去1ヶ月間に「飲み忘れなし」との回答が、第1回調査では65.6%、今回の第2回調査では66.2%でした。

図9-1 抗HIV薬の服用(%, 第1回調査n=913, 第2回調査n=1038)
図9-1 抗HIV薬の服用(%, 第1回調査n=913, 第2回調査n=1038)
図9-2 抗HIV薬の1日あたりの内服回数(%, 第1回調査n=785, 第2回調査n=948)
図9-2 抗HIV薬の1日あたりの内服回数(%, 第1回調査n=785, 第2回調査n=948)

内服を開始してからの期間は、最小1年、最大29年、平均6.8年、中央値(ちょうど真ん中の値)は5年でした。この3年以内に内服開始した人は抗HIV薬内服者のうち約3割でした。

抗HIV薬の組み合わせ決定

今飲んでいる抗HIV薬を決めるまで、その薬についての説明が十分に理解できたとする人は93.6%、その薬を飲むことを決めるときにご自身の考えも反映されたと感じている人は73.1%、いくつかある薬の選択肢のなかから自分で選べたと思うという人は60.9%(同質問には、「いいえ」が23.0%、「わからない」との回答が15.8%)、その薬はご自身の生活習慣にあっているとする人は91.5%となっていました(いずれもn=948)。

現在抗HIV薬を内服している948人に、その組み合わせを決めるにあたり優先した事項をたずねたところ(図9-3)、「飲む回数」が78.4%ともっとも多く、ついで「医師が勧めたので」の56.6%、「食事時間と無関係であること」46.7%が多くなっていました。参考までに、2008年にぷれいす東京及び日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラスが実施した同様の調査結果(*)と比較してみたところ、錠数や回数、食事と無関係であるといった理由が増加した一方、主治医提案や治療効果の高さ、短期的副作用の少なさ等を回答している人の数は減少していました。

図9-3 現在飲んでいる抗HIV薬の組み合わせを決めるにあたり優先した事項(%, n=948)
図9-3 現在飲んでいる抗HIV薬の組み合わせを決めるにあたり優先した事項(%, n=948)

井上洋士, 矢島嵩, 高久陽介, 長野耕介, 長谷川博史, 生島嗣. 239人のHIV陽性者が体験した検査と告知.ぷれいす東京/日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス, 2011年.

抗HIV薬の変更回数は、記載のある939人についてみると、平均1.52回、最小値0回(変更なし)、最大値41回、中央値(ちょうど真ん中の値)は1回でした。HIV陽性判明時期が2015~2017年の方々285人については中央値0回、同様に2010~2014年HIV陽性判明の人では中央値1回、2005年~2009年の人では中央値2回、2000年~2004年で同3回、1999年以前で4.5回であり、押しなべて5年に1回くらい薬を変更している状況にありました。

災害時・緊急時への対応

震災や火山噴火、津波、台風などによる災害が起きたときのために抗HIV薬の予備を持っていると良いという意見があります。ただし現在は予備用の抗HIV薬は処方できません。「あなたは、災害が起こって医療機関に行けないときのために、抗HIV薬の予備を持っていますか?」という問いかけをしたところ(図9-4)、約半数で抗HIV薬の予備を持っているとの回答になりました。予備用の薬を持っている人に意識して持っている薬の量をたずねたところ、1か月分が31.4%、次いで2週間分21.4%、1週間分20.1%でした。

図9-4 災害時のための予備の薬
図9-4 災害時のための予備の薬

災害時などの緊急時に備えて、治療に関わる物品として、どのようなものを準備しているのか(「準備」とは、常時携帯や、すぐに持ち出せる場所・避難用持ち出し袋への保管などを指します。)たずねました。 その結果、抗HIV薬が43.7%ともっとも多く、ついで身体障害者手帳、健康保険証がそれぞれ約4割となっていました。

図9-5 緊急時に備えて準備している、治療に関わる物品(%, n=1038)
図9-5 緊急時に備えて準備している、治療に関わる物品(%, n=1038)

院外・院内どちらの処方か

全体では約4割が院内処方であると回答されていました。医療機関の特性によって割合は大きく異なり、ブロック拠点病院でも中核拠点病院でもないエイズ治療拠点病院での院内処方は65%に及ぶ一方で、エイズ治療・研究開発センターや診療所・クリニックは4%にとどまる結果となっていました。

表9-1 抗HIV薬は院外処方・院内処方どちらか
n 院内 院外 両方 どちらでもない わからない
全体 948 38.0% 60.2% 1.4% 0.1% 0.3%
エイズ治療・研究開発センター(ACC) 75 4.0% 96.0% 0.0% 0.0% 0.0%
ブロック拠点病院 283 23.7% 75.3% 1.1% 0.0% 0.0%
中核拠点病院 221 51.1% 47.1% 1.8% 0.0% 0.0%
上記3つ以外のエイズ治療拠点病院 221 64.7% 33.5% 1.4% 0.5% 0.0%
エイズ治療拠点病院以外の病院 8 50.0% 37.5% 12.5% 0.0% 0.0%
エイズ治療拠点病院かどうか不明の病院 6 16.7% 66.7% 0.0% 0.0% 16.7%
診療所・クリニック 76 3.9% 94.7% 0.0% 0.0% 1.3%
その他 7 28.6% 71.4% 0.0% 0.0% 0.0%
わからない 9 33.3% 55.6% 11.1% 0.0% 0.0%

お薬手帳について(図9-6)

お薬手帳を持つ人は64.0%でした。持っている人のうち約4割が「HIVに関する薬とそれ以外とでお薬手帳を別にしている」あるいは「1冊だが、HIVに関する薬のシールを貼らないようにしている」と答えていました。

図9-6 お薬手帳について
図9-6 お薬手帳について

HIV感染予防策

HIV感染予防策としてもっとも効果的と思うものについて単一回答でたずねたところ、「コンドームの使用」が59.1%と際立って多くあげられていました。ついで、教育9.8%、より多くのHIV陽性者が抗HIV薬を服用しウイルスを抑制すること7.2%、HIV検査の推進6.0%、禁欲・セックスをしない5.0%、PrEP(HIV感染予防のための服薬)3.0%、不特定多数とのセックスを控える2.9%、セックスのやり方を変える(中出しはしない・されない等)2.9%でした。

HIV感染予防のための服薬(PrEP)について、聞いたことがある人は65.9%、聞いたことがない人は34.1%でした。またPrEPの内容について具体的に知っているかという質問に対しては「よく知っている」が15.1%、「まあ知っている」が22.4%にとどまり、「あまり知らない」33.7%、「まったく知らない」28.6%と、知らない人のほうが知っている人よりも多い状況にありました。PrEPに興味あるかという問に対しては「とても興味がある」が30.3%、「まあ興味がある」が43.8%と、「あまり興味がない」20.0%、「まったく興味がない」5.8%に比べて多い結果となっていました。

トランスジェンダーでの通院や健康に関連した問題

第2回の調査で新たに設けた質問です。7人のトランスジェンダーの方から回答を得ることができました。全員が抗HIV薬を服用していました。 過去1年間の通院や健康に関連した問題については、以下のような回答がありました。

  • HIVの主治医に性別のことを何度も聞かれるので面倒である 1人
  • 抱えている症状について医師や看護師に正直に言えない 3人
  • 女性あるいは男性ホルモン剤を使っているが、医療機関からではなく友人・知人・ネットから入手した 1人

※友人・知人・ネットからホルモン剤を入手している1人は「抱えている症状について医師や看護師に正直に言えない」とも回答

がんに関連する検査

この1年間のがん検診受診状況を図9-7に示します。前立腺がんは男性のみ、子宮頸がん・乳がんは女性のみで算出しています。

対象者のうち、60歳以上は14人(1.3%)であることから、国民生活基礎調査の結果を、子宮頸がん20歳以上60歳未満、他40歳以上60歳未満として比較してみました(図9-8)。その結果、子宮頸がん以外、HIV陽性者の各がん検診の受診率は低くなっている状況にありました。

図9-7 この1年間のがん検診受診状況
図9-7 この1年間のがん検診受診状況
図9-8 厚生労働省が定める年齢対象者のがん検診状況と平成28年度国民生活基礎調査結果(参考値)との比較(参考値は子宮頸がん20歳以上60歳未満・他40歳以上60歳未満)
図9-8 厚生労働省が定める年齢対象者のがん検診状況と平成28年度国民生活基礎調査結果(参考値)との比較(参考値は子宮頸がん20歳以上60歳未満・他40歳以上60歳未満)

C型肝炎

C型肝炎ウイルスの検査を受けたことがある人は33.7%(349人)でした。検査を受けた時期について回答している人での分布を見ますと、1年以内という人が54.3%であった一方、5年以上前の人が23%でした(図9-9)。

C型肝炎ウイルスの検査を受けたことがある349人に検査の結果についてたずねたところ「現在も感染している」が4.3%(15人)、「過去に感染していたが、現在は治癒した」が11.2%、「感染していなかった」が83.1%、「検査結果はわからない」が1.4%となっていました。

「現在も感染している」と回答した15人の治療状況の詳細を見ますと、「現在治療中」が4人、「治療したが完治せず治療を予定している」が1人、「治療したが完治せず治療の予定はない」が2人、「治療を受けていないが予定している」が2人、「治療を受けていないし予定もない」は6人でした。

図9-9 C型肝炎ウイルスの検査を受けた時期(人、検査を受けたことがある人は349人)
図9-9 C型肝炎ウイルスの検査を受けた時期(人、検査を受けたことがある人は349人)

身体障害者手帳取得

回答者 1038人のうち、HIV(=免疫機能障害)で身体障害者手帳を取得している方(申請中の27人も含む)は 953 人(91.8%)でした。また、その等級は、1 級 14.8%、2 級31.8%、3 級27.6%、4 級12.9%でした(図9-10)。

図9-10 免疫機能障害での身体障害者手帳取得状況(%, n=1038)
図9-10 免疫機能障害での身体障害者手帳取得状況(%, n=1038)

また、手帳を取得している陽性者 926 人のうち、手帳などを利用して受けている福祉サービスの内容は、「自立支援医療(更正医療)」77.0%、「税金の障がい者控除」36.6%、「自治体の医療費助成」32.4%、「福祉手当」18.4%、「障害者枠での就職・就労」13.4%などが多く(図9-11)、医療費に関する制度が陽性者にとって、経済的に重要な役割を果たしている現状が明らかになりました。

図9-11 身体障害者手帳などを利用して受けている福祉サービス (%, n=926)
図9-11 身体障害者手帳などを利用して受けている福祉サービス (%, n=926)

「免疫機能障害」という記載が身体障害者手帳に書いてあるために、身体障害者手帳を使ってサービスを受ける際に、「免疫機能障害」という欄に付箋を貼ったり隠したりしたことはあるかどうかたずねたところ、手帳を取得している926人中81人(8.7%)が「ある」と回答していました。具体的な場面として多かったのは、JR・飛行機など旅費の割引(926人中で4.8%)、映画館の割引(3.1%)、公共施設利用の割引・無料(2.9%)、携帯電話の割引(2.4%)、バス・地下鉄などの福祉乗車券(2.2%)でした。

就労している895人のうち、現在の就労が「障害者雇用枠ではない」人は85.4%、「最初から障害者雇用枠で雇用されている」人は 9.7%、「最初は一般雇用枠であったが、今は障害者雇用枠にカウントされている」人は4.1%でした。「最初は障害者雇用枠であったが、今は一般雇用枠で雇用されている」と回答した方も2人(0.2%)いました(無回答は5人)。

飲酒・喫煙・肥満/やせ

飲酒習慣(週3回以上の飲酒)の割合は21.6%(1038人中224人)でした。 喫煙の割合は36.4%(1038 人中 378 人)であり、全国調査(※)の男性30.2%と比較して割合は多くなっていました。 肥満およびやせの状況では、肥満者(BMI≧25)の割合は、31.8%(1038人中330 人)であり、また、やせの割合(BMI<18.5)は、5.7% (1038 人中 33 人)でした。全国調査(※)の男性の結果(肥満:31.3%、やせ:4.4%)と比べて、肥満は大きな差はみられず、やせは少ない状況にありました。

厚生労働省. 平成28年国民健康・栄養調査, 厚生労働省, 2017.