Futures Japan HIV陽性者のためのウェブ調査

調査結果

7.周囲の人々や社会との関係

HIV陽性者であることを伝えること(図7-1)

1038人中、946人(91.1%)が、HIV陽性であることを少なくも1人以上に伝えていました。 伝えた相手としてもっとも多くあげられたのは、「その他の友人」で43.9%、次いで同じHIV陽性者同士41.8%、母親35.8%、過去に付き合っていた相手31.0%、パートナー・配偶者30.8%という結果でした。誰にも打ち明けていない人も8.9%存在しました。

図7-1 HIV陽性者であることを伝えた相手(%, n=1038, 複数回答)
図7-1 HIV陽性者であることを伝えた相手(%, n=1038, 複数回答)

HIVに関連した悩み事の相談相手(図7-2)

HIVに関連した悩み事の相談相手として、もっとも多くあげられたのは主治医で、50.9%と半数以上であげられていました。次いで、看護師・コーディネーターナースが30.3%、同じHIV陽性者同士が29.7%という結果であり、医療従事者が多くなっていました。一方で、「そのような人は誰もいない」と回答した人が8.5%、「誰にも相談したくない」と回答した人が6.9%存在しました。

図7-2 HIVに関連した悩み事の相談相手(%, n=1038, 複数回答)
図7-2 HIVに関連した悩み事の相談相手(%, n=1038, 複数回答)

必要時に病院への付き添いや介助をしてくれる人(図7-3)

「そのような人は誰もいない」と回答した人がもっとも多く、26.8%でした。次いで母親が23.4%、パートナー・配偶者が22.2%と、多くなっていました。HIV支援団体のスタッフ・ボランティアをあげた人は2.1%、ヘルパーが1.9%であり、家族やパートナー以外をあげる人は少ない状況にありました。また、13.6%が「誰の世話にもなりたくない」と回答していました。以上から、体調が変化した際のサポート源は十分ではない可能性が伺えます。

図7-3 必要時に病院への付き添いや介助をしてくれる人(%, n=1038, 複数回答)
図7-3 必要時に病院への付き添いや介助をしてくれる人(%, n=1038, 複数回答)

HIVに関連するスティグマ

HIVに関連するスティグマとは、「HIVやAIDSとともに生きている、あるいは関連のある人を低く評価するプロセス」(UNDS,2003)とされ、HIV陽性者に対する不公平・不正義な扱いへとつながり、差別や偏見を生じさせていることが指摘されています。
この調査では、スティグマを「HIVに対する社会からのスティグマの感じ方」、「HIVに対するスティグマにまつわる経験の多さ」、「スティグマによる行動の自主規制」の3つの側面から確認することにしました。 なお、今回は詳細について説明を省きますが、第1回調査結果と第2回調査結果とで、HIVに関連するスティグマの状況を比較すると、全体としてはほぼ同程度で変わっておらず、項目によっては悪化しているものもありました。

HIVに対する社会からのスティグマの感じ方(図7-4)

HIVに対する社会からのスティグマについてどのように感じているかを8項目で質問しました。 各質問は、「まったくそうではない」「あまりそうではない」「ややそうである」「とてもそうである」の4段階で回答する形式をとっています。図7-4では、「まったくそうではない」「あまりそうではない」を「そうでない」、「ややそうである」「とてもそうである」を「そうである」とし、その割合(%)を以下では紹介します。
「HIV陽性であることを他の人に話すときにはとても用心する」と回答したのは92.8%に達していました。「一般に人々はHIV陽性であることを知ると拒絶する」という人は85.7%、「HIV陽性だと誰かに打ち明けると、さらに別の人に伝わるのではと心配になる」という人は85.2%であり、ほとんどの人が、HIV陽性であることを知られることに強い不安や心配を感じていることが伺われました。 さらに、「HIV陽性であることを雇い主や上司に知られると職を失うと思う」では63.6%が、「そうである」と回答しており、HIV陽性であることを知られることに対する恐怖を、職を失うといった具体的なものとして捉えている人が少なくありませんでした。

図7-4 HIVに対する社会からのスティグマの感じ方(%, n=1038)
図7-4 HIVに対する社会からのスティグマの感じ方(%, n=1038)

HIVに対する社会からのスティグマにまつわる経験の多さ(図7-5)

実際にスティグマを感じるような経験をしたかどうかを4項目で質問しました。各質問は、「まったくそうではない」「あまりそうではない」「ややそうである」「とてもそうである」の4段階で回答する形式をとりました。図7-5では、「まったくそうではない」「あまりそうではない」を「そうでない」、「ややそうである」「とてもそうである」を「そうである」の2つに分け、それぞれの割合を示しています。

50.5%が「HIV陽性と他の人に打ち明けたものの、言わなければよかったと思うことばかりだった」に対し「そうである」と回答していました。「私がHIV陽性であることを知ったとたんに、物理的に距離を置かれたことがあった」では47.0%が、「HIV陽性になったのは自分自身がいけないからだ、と周囲の人に言われたことがあった」では、41.8%が「そうである」と回答しており、HIV陽性であることによるネガティブな実体験が各々半数近くの人にありました。

図7-5 HIVに対する社会からのスティグマにまつわる経験の多さ(%, n=1038)
図7-5 HIVに対する社会からのスティグマにまつわる経験の多さ(%, n=1038)

HIVに対する社会からのスティグマによる行動の自主規制(図7-6)

HIVに対する社会からのスティグマを感じ、そのために、自らの生活について自主規制としてとらざるを得ない行動について6項目で質問しました。各質問は、「まったくそうではない」「そうではない」「どちらともいえない」「ややそうである」「とてもそうである」の5段階で回答する形式です。図7-6では、「まったくそうでない」「そうではない」は、「そうでない」、「ややそうである」「とてもそうである」は、「そうである」、「どちらともいえない」はそのままとし、3つに分けました。「そうである」「どちらともいえない」「そうでない」の結果を示します。

半数の人(50.7%)が、「HIVに感染していることは恥ずかしいことである」と回答していました。「他の人とHIVを話題にするときにウソをついている」のは64.3%、「HIV陽性であることを周囲に知られないように頑張っている」のは65.9%であり、HIV陽性であることを周囲に隠すために「嘘をつく」「頑張る」などの行動を自主規制している人は6割以上にのぼっていました。

「他の人々と交流したいが、HIV陽性であるので、交流しないでいる」では、「そうである」は30.0%、「HIV陽性であるため新しい友人をつくることをひかえている」では、「そうである」が30.0%であり、他の人々との交流を実際に控えている人は、3割程度に留まっていました。しかし一方で、「HIV陽性であることで、他の人とセックスしたり恋愛関係になったりすることを避けている」については「そうである」が42.1%であり、セックスや恋愛関係に関する交流は4割の人が自主規制を行っている状況にありました。

図7-6 HIVに対する社会からのスティグマによる行動の自主規制(%, n=1038)
図7-6 HIVに対する社会からのスティグマによる行動の自主規制(%, n=1038)

地域ごとのスティグマの比較

HIVに対する社会からのスティグマの感じ方8項目、HIVに対する社会からのスティグマにまつわる経験の多さ4項目、HIVに対する社会からのスティグマによる行動の自主規制6項目のそれぞれ合計得点の平均点を算出し、地域ごとに違いがあるかを検討してみました。地域は、北海道、東北、東京、東京以外関東甲信越、北陸、東海、大阪、大阪以外近畿、中国、四国、九州、沖縄の12の地域と設定ました。統計的に分析したところ(表7-1)、スティグマに対する恐怖の強さ、スティグマによる行動の自主規制において、北関東が東京に比べて有意に得点が高くなっていました(表に※、*で示しています)。HIVに対する社会からのスティグマにまつわる経験の多さについては、地域ごとの有意差は認められませんでした。

表7-1 スティグマに対する恐怖の強さ、スティグマにまつわる経験の多さ、スティグマによる行動の自主規制の地域ごとの平均得点の比較
スティグマに対する恐怖の強さ
(8-32点)
スティグマにまつわる経験の多さ
(4-16点)
スティグマによる行動の自主規制
(6-30点)
地域(人数) 平均点±標準偏差 平均点±標準偏差 平均点±標準偏差
東京(336) 24.6±4.8 ※ 9.4±3.3 18.9±5.7 *
北海道(43) 26.1±4.4 9.7±3.5 19.9±5.6
東北(25) 25.1±4.6 10.6±3.5 18.6±5.1
北関東(31) 27.5±3.2 ※ 10.7±3.5 22.4±5.4 *
南関東(137) 25.5±4.8 9.7±3.4 19±5.5
甲信越(12) 24.9±5.5 9.3±4.9 21.2±6.7
北陸(14) 26.1±4.3 10.9±2.9 20.6±5
東海(92) 25.5±5.5 10±3.5 20.4±5.8
近畿(203) 25.0±5.0 9.1±3.4 18.9±5.5
中国(37) 26±4.6 10.6±3.2 20.8±5.4
四国(9) 23.8±4.3 10.8±2.9 19.1±4.6
九州沖縄(98) 26.2±4 9.9±3.5 20.3±5.4
合計(1037) 25.3±4.8 9.6±3.4 19.4±5.6

ゲイ・バイセクシャル・レズビアン・トランスジェンダーに対するスティグマについて(図7-7)

性的指向や性自認に目を向けて、ゲイ・バイセクシャル・レズビアン・トランスジェンダー(以下LGBT) に対する偏見に関連する状況について14項目で質問しました。各質問は、「まったくない」「たまにある/あった」「よくある/あった」「非常によくある/あった」の4段階の回答形式となっています。図7-7では、「よくある/あった」と「非常によくある/あった」を統合して「よくある」とし、「まったくない」、「たまにある/あった」、「よくあった」の3つとし、結果は主に「「よくある」と「まったくない」について示します。セクシャリティに関する質問でヘテロセクシャルと回答した36人を除外した1002人の回答を集計しました。

「LGBTであることを家族には黙っている」では、「よくある」が62.5%であり、6割以上が家族にLGBTであることを隠していました。また、「自分がLGBTであることで、家族を傷つけ困惑させていると感じる」では、「よくある」は32.3%、「まったくない」は24.1%、であり、よくあると感じている人の方が多くなっていました。一方で、「LGBTであるために、家族に受け入れてもらえなかった」では、「よくある」は18.4%とそれほど多くはありませんでした。

家族以外との関係については、「受け入れてもらうために、LGBTでないふりをしなければならない」で、「よくある」は58.3%であり、6割近くの人が受け入れてもらうために、LGBTであることを隠すための行動をとらざるを得ない状況にありました。「LGBTであるために、友人を失った」では、「よくある」は10.3%、「まったくない」は65.1%であり、友人関係への影響は比較的少ない様子でした。「LGBTであることを学校や職場の人には黙っている」では、「よくある」は73.7%であり、学校や職場といった場では、LGBTであることは公にしないと考える人が多いことが伺えました。一方で、LGBTであることを医療者には黙っている」では、「よくある」は25.4%、「まったくない」は45.9%、LGBTであることを医療者に伝えている人は半数に満たないことがわかりました。

図7-7 LGBTに関するスティグマ(%, n=1002)
図7-7 LGBTに関するスティグマ(%, n=1002)

HIVに関連した差別・偏見を感じている人へのアドバイスやメッセージ(自由記載)

回答者320人(うち、「特になし」39人)のうち、約4割(132人)が告知やカミングアウトに関する内容でした。頻出語(よく出てくる言葉)を抽出し、類似した語をカテゴリー化すると、以下のような語が頻出語となっていました。

頻出語

伝える・カミングアウト・打ち明ける・告げる・告知・告白:205,友人・友達・仲間・当事者・ピア:51,病院・医師・看護師・カウンセラー:38, 相談:38,環境・周囲:31,会社・職場・上司・同僚:30,家族・親・父母:22

このように、HIVについて伝えることや相談について、相手(友人、病院、職場、家族)と関連した記述が多い特徴がありました。

代表的なもの及び特徴的な記述を以下に示します。なお、頻出語には下線を記してあります。

  • 一般的にはまだ理解の少ないHIVについての話題は極力避けています。まして自分のことを打ち明けられる環境にはないと感じています。 しかし、数少ない信頼できる仲間と話をしたり相談することで、大きく救われています。特に感染初期は不安で一杯になりながらも従来通り仕事や生活をしていくため、家族友人打ち明けられない場合は、NPOの方や主治医へ悩みを打ち明け力を貸していただくことで、精神的な落ち着きを図れることも多々あると思います。とにかく1人で悩みを抱えない環境を作っていくことはとても大切だと思います。
  • 上司に伝えたのですが、知らない間に同僚にも知られていて、無視や差別的なことをされたので、仮に上司などに伝える場合は伝える相手と場所には注意をしたほうがいい。
  • 下手な自己満足でカミングアウトはしない方がいい。 医師や看護師、ソーシャルワーカーなどとよく話をしてから方針を決めて動く事が確実。
  • 伝える相手はしっかり考えて。 感染初期はどうしたらいいかわからないかもしれないけど、誰彼構わず相談しないように。 症状などをTwitterなどで伝えないよう。
  • HIVがあることで周囲に気を遣い、辛い気持ちがあるなら、同じ立場の人たちと話をすること、ピアサポートを利用することで気持ちが楽になるかも知れません。自分は感染がわかってから身近な人にはカミングアウトしていましたが、その人たちには話せないことも同じ立場の人になら言えることも多く、話せて良かったと感じました。具体的な困り事も相談できる場になると思います。
  • セクフレに陽性であることを伝えたが、すごく非難され滅入ってしまった。 どうすればよかったのかはわかりません
  • そもそも、自分が陽性者だと言う必要は全くないと考えるようにしている。 きちんと治療・服薬して、HIVをコントロール出来ているならば、普通の人と同じように生活や振る舞いをして構わないと思う。
  • HIVだからコレが出来ない、アレはしたくないという感情はとても良く解ります。私もそうでした。でも時間が経ち落ち着いて病気を受け入れられた時、それらは自分に対する言い訳で怠けていたんだなと感じました。その怠けていた自分を、あの時はアレで精一杯だったんだ、と許せたら少し楽になりました。

どうなったら陽性者の暮らしやすい社会になるか?(自由記載)

回答者377人(うち、「特になし」22人)でした。頻出語は以下の通りでした。

頻出語

理解:80,知識:68,自分:67,偏見:63,知る:52,差別:43,正しい:41,周囲:31,認識:27,普通:23,情報:22

代表的なもの及び特徴的な記述を示します。なお、頻出語には下線を記してあります。

  • 偏見がなくなるといいんだけど…なかなか無くならない。 怖さがあるからなんだろうけど、その辺りは知識でカバーできるだろうから、ちゃんと知識を持ってほしい。 ただ脅かしのPRが多いじゃないですか。 HIVにかかったら終わりだから検査しましょう…的な。 感染したあとも生きてくんだから、そこもちゃんとPRしてほしい。
  • 同性でも異性でもHIVというものがすごく身近なものだという認識が広がればいいと思う。 当事者にならないと実感湧かないかもしれないけどやっぱりそういう知識がしっかりあるのと無いのとは全然違う。
  • 服薬をしていれば周囲に感染させる可能性が低いことをもっと告知されたら楽になると思う。
  • HIVやAIDSに関する知識や情報が少なすぎる。 知っていれば案ずることもない。 臭いものには蓋をする。 この日本人の気質を変えるべきだと思います。
  • 周囲より自分が変わりたい