調査結果
9.健康管理・福祉について
HIV感染症についての受け止め
「抗HIV薬の内服治療によってHIVを相手に感染させる心配がなくなった」が「とても/ややそう思う」(以下、同)と回答したのは355人(38.9%)であった。「HIV/AIDSは以前ほど深刻な病気ではない」が577人(63.2%)、「HIV陽性が判明することはもはや死の宣告ではない」が697人(76.3%)、「HIV感染症は医学的な管理が可能な病気になっている」は740人(81.1%)にのぼった(図9-1)。
抗HIV薬の服薬
現在抗HIV薬を服用している人は791人(86.6%)、服用したことがあるが現在は服用していない人は11人(1.2%)、服用したことがこれまでない人は109人(11.9%)であった。
現在抗HIV薬を服用している人について、内服開始時期をたずねたところ、1988年から2014年まで、中央値は2009年であった。HIV陽性判明時期との差を見ると、判明後平均では1.4年、中央値では0年経って服薬開始となっていた。抗HIV薬服薬がHIV陽性判明より前になっている者が12人いたが、これらはすべて、感染経路が血液製剤であり、本人へのHIV陽性告知前から内服していたと考えられる。
抗HIV薬の組み合わせを変更した回数は0~15回となっていたが、平均では1.1回、中央値では0回であった。内服回数は、1日1回が469人(51.4%)、1日2回が310人(34.0%)、1日3回が6人(0.7%)、それ以上はなかった。過去1か月間の飲み忘れは「一度もない」人が515人(56.4%)、飲み忘れ回数は0~30回、平均値1.1回、中央値0回であった。1か月を30日として試算したところ飲み忘れ率5%未満は85.5%(780人中667人)であった。
身体障害者手帳取得
回答者913人のうち、HIV(=免疫機能障害)で身体障害者手帳を取得しているもの(申請中の56人も含む)は786人(86.1%)であった。また、その等級は、1級13.4%、2級34.7%、3級26.9%、4級7.0%であった(図9-2)。
また、手帳を取得している陽性者730人のうち、手帳などを利用して受けている福祉サービスの内容は、「自立支援医療(更正医療)」80.8%(730人中590人)、「税金の障がい者控除」37.9%(730人中277人)、「自治体の医療費助成」32.5%(730人中237人)、「福祉手当」19.9%(730人中145人)、「障害者枠での就職・就労」12.9%(730人中94人)などが多く(図9-3)、福祉制度は陽性者にとって、経済的に重要な役割を果たしている現状がみられた。
手帳を取得している陽性者のうち、手帳を取得するために、現住所から転居したものは7.5%(730人中55人)、また、別人の住所を借りるなどして、住所を変更し手帳を取得したものも4.1%(730人中30人)もいた(図9-4)。すなわち、おおよそ1割にもあたる陽性者は、手帳取得の為に、居住していた自治体から住所を移して手帳を取得している実態が明らかとなった。
老後に対する不安
回答者913人のうち、846人(93.0%)が、老後に対して不安を感じていた。その内容としては、「今後の病状」69.2%、「生活に影響するような症状の出現」63.0%などの病状変化に関する不安、「長期入所施設への入所の可否」34.7%、「在宅療養サービスの利用の可否」28.9%などの在宅療養サービス・長期療養施設の受け入れに関する不安、「生活を手伝ってくれる人の不在」58.6%、「一人で、いつまで自宅で過ごすことができるのか」56.6%などの孤立に関する不安が多く聞かれた(図9-5)。
また、老後、誰の世話になりたいかを尋ねたところ、約半数にあたる44.5%の回答者は、「パートナー・配偶者」と回答した。しかし、その一方で、「誰も思いつかない」25.1%、「誰の世話にもなりたくない」21.2%といった、誰の世話にもならずに老後を過ごすと回答したものの割合が、多くを占めていた(図9-6)。
各種保険の加入状況は(図9-7)、生命保険46.8%、医療保険(民間)48.4%、介護保険(民間)8.9%、年金保険・共済(民間)25.3%の回答者が加入していた。しかし、HIV陽性判明後に保険に加入したものの割合は、生命保険5.0%、医療保険(民間)5.8%、介護保険(民間)2.1%、年金保険・共済(民間)4.6%と低く、大半の加入者は、 HIV陽性判明前より加入しているものが多かった。また、現在、加入していないが、可能なら加入したいと回答したものは、生命保険32.0%、医療保険(民間)31.2%、介護保険(民間)49.7%、年金保険・共済(民間)39.8%であり、多くの陽性者が、保険への加入を希望している現状がみられた。
日頃の健康管理
昨今、陽性者の予後が長期化するに伴い、HIVとその治療薬に関連づけられる非AIDS合併症等の健康課題が指摘されている。そのため疾病予防の観点から、日頃の健康管理が重要視されるようになってきた。
本調査では、回答者に、日頃の健康管理で気をつけていることについて尋ねたところ、「食事」57.6%、「運動」39.9%、「睡眠」38.9%、「体重管理」32.3%、「休養」30.3%、「サプリメントの摂取」28.5%、「禁煙」19.9%、「禁酒、飲酒量の抑制」17.5%などの生活習慣に関する行動、また、「抗HIV薬以外の服薬管理」47.9%、「主治医への相談」37.5%、「抗HIV薬との相互作用のある薬剤の確認」35.9%、「気になる症状が出現した際の早期受診」32.6%などの治療・受診に関する行動、「セーファーセックス」40.4%、「ストレスの軽減」38.0%、「予防接種」23.5%、「定期健診・人間ドッグ」13.8%、「がん検診」5.8%などの疾病予防・疾病の早期発見に関する行動などについての回答が得られた。
健康行動については、飲酒習慣(週3回以上の飲酒)の割合は、男性18.6%(875人中163人)、女性11.8%(34人中4人)であり(図9-8)、一般住民を対象とした全国調査(18)での男性34.0%、女性7.3%と比べて、飲酒習慣の割合は男性ではかなり少なく、女性では大きな差は見られなかった。また、喫煙割合は、男性36.9%(875人中323人)、女性8.8%(34人中3人)であり(図9-9)、全国調査の男性34.1%、女性9.0%と比較して、差はみられなかった。
肥満およびやせの状況では、肥満者(BMI≧25)の割合は、男性24.6%(875人中215人)、女性2.9%(34人中1人)であり、また、やせの割合(BMI<18.5)は、男性5.7%(875人50人)、女性14.7%(34人中5人)であった。全国調査の結果をみてみると、肥満者の割合は、男性29.1%、女性19.4%、またやせの割合は、男性4.2%、女性11.4%であり、陽性者との間に、大きな差はみられなかった。
好きで繰り返しやっていること
自由記載を概観したところ、1位「ジム通い・筋トレ等」、2位「インターネットサーフィン」、3位「SNS(ツイッター、Facebook、ブログ等)」、4位「ゲーム」、5位「旅行」という傾向が見られた。
「そのことをするために他のことを犠牲にすることがある」が「ややあてはまる/あてはまる」が28.8%、「せめて今日はそのことをするまいと思っていても、ついてしてしまうことがある」が同29.4%、「ここでやめておこうと思っていてもついそのことを続けてしまうことがある」が36.0%、「そのことがないと人生そのものに面白みがなくなる」が50.9%であった。
■ペットの飼育状況
ペットを飼っている者は、196人(21.5%)、飼っていない者は713人(78.1%)、無回答は5人(0.5%)であった。これらの人のうち、HIV陽性になってからペットの飼い方を医師や看護師などから説明された者は224人(24.5%)であった(図9-10)。
HIV陽性者がペットを飼うことについて、「身体に良くないと思っている」者は171人(18.7%)、「身体によくないと思っていない」者は363人(39.8%)、「どちらともいけない・わからない」者は375人(41.1%)であった(図9-11)。
ペットを飼っていない者のうち、飼いたいと思う者は257人(36.0%)、飼いたくない者は306人(42.9%)、どちらともいえない者は146人(20.5%)であった。また、ペットがいれば生活にはりあいがでると思う者は349人(38.2%)、思わない者は174人(19.1%)、どちらともいえない者は190人(20.8%)であった。
現在のいきがいや生活のはりあい
23項目の現在のいきがいや生活のはりあいのうち、趣味・レジャーが415人(45.5%)と最も多く、ついで仕事・勉強382人(41.8%)、友人302人(33.1%)、インターネット・ツイッターやミクシイ、フェイスブックなどでのやりとり262人(28.7%)、パートナー・配偶者252人(27.6%)、セックス241人(26.4%)、旅行230人(25.2%)、買い物226人(24.8%)、家族188人(20.6%)、酒を飲む、バーや居酒屋などへ行く154人(16.9%)などであった(図9-12)。
HIV陽性者の支援に関して望むもの
HIV陽性者の支援に関して国、地方自治体、医療機関、市民団体などに望むものとして、17項目を提示し選択を求めた(図9-13)。約3割以上に選択されたのは、「土日や夜間の診療体制整備」「障害者手帳の表記の改善」など7項目であった。なお、特に望むことはないとした回答した人は68人(7.4%)にとどまった。
HIV陽性を知る前に知っていたHIV関連機関・プロジェクト
MSM向けのコミュニティセンターなど15のHIV関連機関・プロジェクトを提示し、HIV陽性を知る前から知っていたものを挙げてもらったところ、図9-14のように、1割以上で「HIV陽性告知をされる前から知っていた」と回答されていたのは、コミュニティセンターaktaなど8つであった。一方で、「いずれも知らなかった」とする人が370人(40.5%)ともっとも多い状況にあった。ただし、各機関・プロジェクトは、それぞれ開始が概ね2000年以降であるため、それよりも前にHIV陽性判明した人は認知できないことに留意する必要がある。
日本におけるHIV予防啓発活動について気になること
日本のHIV予防啓発活動について気になることとして、15項目を提示し、選択してもらったところ、下記の図9-15のように、もっとも多かったのは、「HIV陽性者が身近にいるというメッセージを人々に伝えてほしい」(382人、41.8%)、ついで多かったのは「さまざまな性的嗜好・指向があることを考慮に入れてほしい」(334人、36.6%)であった。「気になることはない」とした人は98人(10.7%)であった。
(18) 厚生労働省. 平成24年 国民健康・栄養調査結果の概要. 2013