Futures Japan HIV陽性者のためのウェブ調査

調査結果

7.周囲の人々

HIV陽性者であることを伝えること

913人中、854人(93.5%)が、HIV陽性であることを少なくとも1人以上に伝えていた。伝えた相手として多くあげられたのは、友人が449人(49.2%)、同じHIV陽性者同士が407人(44.6%)、母親が354人(38.8%)であった。また、303人(33.2%)が、過去に付き合っていた相手に伝えていた(図7-1)。

図7-1 HIV陽性であることをこれまで伝えた相手(%、n=913)
図7-1  HIV陽性であることをこれまで伝えた相手(%、n=913)

HIVに関連した悩み事の相談相手

最も多かったのは主治医で443人(48.5%)、二番目はHIV陽性者同士で330人(36.1%)、次いで看護師・コーディネーターナースで281人(30.8%)と医療関係者が多かった。一方で、「そのような人は誰もいない」と回答した人が65人(7.1%)、「誰にも相談したくない」と回答した人が59人(6.5%)であった(図7-2)。

図7−2 HIVに関連した悩み事の相談相手(%、n=913)
図7−2  HIVに関連した悩み事の相談相手(%、n=913)

必要時に病院への付き添いや介助をしてくれる人

母親をあげた人が235人(25.7%)ともっとも多く、次いでパートナー・配偶者が198人(21.7%)だった。一方で、213人(23.9%)の人が、そのような人は誰もいないと回答していた。HIV支援団体のスタッフやボランティアが27人(3.0%)、ヘルパーが17人(1.9%)であり、家族や知人以外を挙げる人は、少なかった(図7-3)。

図7−3 必要時に病院への付き添いや介助をしてくれる人(%、n=913)
図7−3 必要時に病院への付き添いや介助をしてくれる人(%、n=913)

HIV に関連した人的ネットワークの広がり:陽性とわかった前後の変化

自身がHIV陽性であることを知る前は、HIVやエイズについて率直に話題にできる人は、誰もいない人が多く、リアルでは551人(60.4%)、ネット上では725人(79.4%)が、誰もいないと回答していた。陽性であることを知った後は、誰もいないという人は、リアルでは204人(22.3%)、ネット上では462人(50.6%)と、知る前より減少していた(図7-4)。

図7-4 HIVやエイズについて率直に話題にできる人:陽性判明前後の変化
図7-4 HIVやエイズについて率直に話題にできる人:陽性判明前後の変化

HIV陽性者の知り合いがいる人についても、陽性であることを知る前は、リアルでは671人(73.5%)、ネット上では793人(86.9%)が、誰もいないと回答していた。一方で、陽性であることを知る前でも、リアルにHIV陽性者の知り合いが1〜3名いると回答した人は、217人(23.8%)存在した。陽性であることを知った後は、誰もいないという人は、リアルでは318人(34.8%)、ネット上では447人(52.2%)と知る前より減少していた(図7-5)。

図7-5 HIV陽性者の知り合い:陽性判明前後の変化
図7-5 HIV陽性者の知り合い:陽性判明前後の変化

HIV陽性者支援団体や当事者団体との関わり

NPO、NGO等のHIVに関連した活動との関わりについては、HIV陽性であることを知る前には、関わっていなかった人が848人(92.9%)とほとんどを占めていた。HIV陽性者となったあとは、326人(35.7%)が、HIV陽性者支援団体や当事者団体のサービスを利用した経験があった。

HIVに対する社会からの偏見の感じ方:外的スティグマ

HIVに対する社会からの偏見についてどのように感じているかを8項目で、質問した。

各質問は、「まったくそうではない」「あまりそうではない」「ややそうである」「とてもそうである」の4段階で回答する形式である。まったくそうではない・あまりそうではない、を「そうでない」、ややそうである・とてもそうである、を「そうである」の2つに分け、「そうである」とした人数(%)を示した(図7-6)。

図7−6 外的スティグマ:HIVに対する社会からの偏見の感じ方8項目の分布
図7−6 外的スティグマ:HIVに対する社会からの偏見の感じ方8項目の分布

「私がHIV陽性であることを知っている人が周囲に誰ひとりいない状況が日常生活では多い」という人は、609人(66.7%)であり、半数以上を占めていた。また、「HIV陽性であることを誰かに打ち明けることは危険なことである」では、743人(81.4%)が、「HIV陽性であることを誰か他の人に話すときにはとても用心する」では、793人(86.9%)が「そうである」と回答しており、8割以上の人がHIV陽性である事を打ち明けることに関しては、かなり注意を要していることが伺われた。

さらに、「HIV陽性であることを雇い主や上司に知られると職を失うと思う」では574人(62.9%)が、「一般に人々は、HIV陽性者であることを知ると拒絶するものである」では742人(81.3%)が、「そうである」と回答しており、HIV陽性であることを知られることに関する恐怖を、職を失う・周りの人々から拒絶されるといった具体的なものとして捉えている人が少なくなかった。

HIVに対する社会からの偏見にまつわる経験:外的スティグマ

実際に偏見を感じるような経験をしたかを4項目で質問した。各質問は、「まったくそうではない」「あまりそうではない」「ややそうである」「とてもそうである」(あるいは「まったくなかった」「あまりなかった」「まああった」「かなりあった」)の4段階で回答する形式である。まったくそうではない・あまりそうではない(まったくなかった・あまりなかった)、を「そうでない」、ややそうである・とてもそうである(まああった・かなりあった)、を「そうである」の2つに分け、「そうである」とした人数(%)を示した(図7-7)。

図7−7 外的スティグマ:HIVに対する社会からの偏見にまつわる経験4項目の分布
図7−7 外的スティグマ:HIVに対する社会からの偏見にまつわる経験4項目の分布

「HIV陽性と他の人に打ち明けたものの、言わなければよかったと思うことばかりだった」では、425人(46.5%)が、「私がHIV陽性であることを知ったとたんに、物理的に距離を置かれたことがあった」では、394人(43.2%)が、「そうである」と感じており、HIV陽性であることを打ち明けたことによるネガティブな実体験が各々約半数の人にあった。「HIV陽性になったのは自分自身がいけないからだと、周囲の人に言われたことがあった」人も359人(39.3%)にのぼった。
親しい人に「私がHIV陽性であることは他の人には決して言わないでくれ」と伝えたことがあった」では、460人(50.4%)が「そうである」と回答していた。

HIVに対する社会からの偏見による行動の自主規制:内的スティグマ

HIVに対する社会からの偏見を感じ、そのために、自らの生活について自主規制としてとらざるを得ない行動(内的スティグマ)について6項目で質問した。各質問は、「まったくそうではない」「そうではない」「どちらともいえない」「ややそうである」「とてもそうである」の5段階で回答する形式である。「まったくそうでない」「そうでない」は、「そうでない」、「ややそうである」「とてもそうである」は、「そうである」、「どちらともいえない」はそのままとし、3つに分けた(図7-8)。

図7−8 内的スティグマ:HIVに対する社会からの偏見による行動の自主規制6項目の分布
図7−8 内的スティグマ:HIVに対する社会からの偏見による行動の自主規制6項目の分布

「HIVに感染していることは恥ずかしいことである」で、「そうである」と回答したのは、440人(48.2%)と約半数であった。

「HIV陽性であることを周囲に知られないように頑張っている」については、「そうである」が578人(63.3%)、また、「他の人とHIVを話題にするときにウソをついている」で、「そうである」は517人(56.6%)であった。つまり、6割程度の人が、HIV陽性であることで、周囲の人と付き合いに関して「頑張ったり」、「嘘をついたり」せざるを得ない状況にあった。

「他の人々と交流したいが、HIV陽性であるので、交流しないでいる」では、「そうである」は323人(35.4%)と、交流そのものを控えている人は3割強存在した。同様に、「HIV陽性であるため新しい友人をつくることをひかえている」では、「そうである」が306人(33.5%)であり、友人をつくることを控えている人も、3割程度を占めた。一方で、「HIV陽性であることで、他の人とセックスしたり恋愛関係になったりすることを避けている」については「そうである」が487人(53.3%)と、セックスや恋愛関係に関しては、半数以上の人が自主的に規制していた。

地域ごとの比較

HIVに対する社会からの偏見の感じ方8項目、HIVに対する社会からの偏見にまつわる経験4項目、HIVに対する社会からの偏見による行動の自主規制6項目のそれぞれ合計得点の平均点を算出し、地域ごとに違いがあるかを検討した。地域は、北海道、東北、東京、東京以外関東甲信越、北陸、東海、大阪、大阪以外近畿、中国、四国、九州、沖縄の12の地域とした。統計的に分析したところ表7-1のようになり各地域による有意差はみられなかった。

表7-1 偏見に対する恐怖の強さ、偏見を感じた経験の多さ、偏見による行動の自主規制の地域ごとの平均得点
偏見に対する恐怖の強さ
(8-32点)
偏見を感じた経験の多さ
(4-16点)
偏見による行動の自主規制
(6-30点)
地域(人数) 平 均 ± 標準偏差 平 均 ± 標準偏差 平 均 ± 標準偏差
北海道(41) 24.93 ± 4.32 9.04 ± 2.86 20.16 ± 5.38
東北(23) 25.26 ± 4.85 10.00 ± 2.68 19.65 ± 6.12
東京(273) 23.73 ± 5.72 9.29 ± 3.30 18.73 ± 5.89
東京以外関東甲信越(131) 24.59 ± 4.94 9.21 ± 3.30 19.69 ± 5.48
北陸(10) 24.90 ± 4.43 8.30 ± 2.21 20.30 ± 3.74
東海(97) 23.26 ± 5.86 9.38 ± 3.26 18.95 ± 5.52
大阪(130) 24.95 ± 4.75 9.09 ± 3.47 19.71 ± 5.54
大阪以外近畿(77) 25.40 ± 4.61 10.12 ± 3.38 20.58 ± 5.14
中国(35) 24.50 ± 6.18 10.01 ± 3.46 20.00 ± 5.38
四国(15) 26.27 ± 4.35 10.73 ± 3.37 22.80 ± 3.51
九州(55) 25.07 ± 5.67 9.29 ± 3.21 21.24 ± 5.71
沖縄(19) 25.00 ± 5.37 9.42 ± 2.81 19.74 ± 5.57

ゲイ・バイセクシャル・レズビアンに対する偏見について

ゲイ・バイセクシャル・レズビアン(LGBT) に対する偏見に関連する状況についてLGBTである人に限って聞いた。各質問は、「まったくない」「たまにある/あった」「よくある/あった」「非常によくある/あった」の4段階の回答形式である。「よくある/あった」と「非常によくある/あった」を統合して「よくある」とし、「まったくない」、「たまにある/あった」、「よくあった」の3つとし、結果は主に「「よくある」と「まったくない」について示した。

「ゲイ・バイセクシュアル・レズビアンであることを家族には黙っている」では、「まったくない」は186人(22.5%、該当者のうち、以下同様)、「よくある」527人(63.9%)であり、6割の人が家族に黙っていることが伺われた。また、「自分がゲイ・バイセクシュアル・レズビアンであることで、家族を傷つけ困惑させていると感じる」では、「よくある」282人(34.1%)、「まったくない」205人(24.8%)であり、よくあると感じている人の方が多かった。一方で、「ゲイ・バイセクシュアル・レズビアンであるために、家族に受け入れてもらえなかった」では、「よくある」144人(17.6%)、「まったくない」502人(61.4%)であり、実際には、家族の受け入れはそれほど悪くないことが推察された。

家族に限定しない関係については、「受け入れてもらうために、ゲイ・バイセクシュアル・レズビアンでないふりをしなければならない」で、「よくある」449人(54.3%)、「まったくない」141人(17.0%)であり、約半数の人が受け入れてもらうために、ゲイ・バイセクシャルであることを隠していた。「ゲイ・バイセクシュアル・レズビアンであるために、友人を失った」では、「よくある」73人(8.8%)、「まったくない」573人(69.5%)であり、友人関係への影響は少ない様子であった。「ゲイ・バイセクシュアル・レズビアンであることを学校や職場の人には黙っている」では、「よくある」589人(71.1%)、「まったくない」107人(12.9%)であり、6割強の人が学校や職場といった場では、ゲイ・バイセクシャルであることは公にしないと考えていることが伺えた。

一方で、ゲイ・バイセクシュアル・レズビアンであることを医療者には黙っている」では、「よくある」166人(20.0%)、「まったくない」468人(56.5%)と半数以上の人が医療者には隠さないと回答していた。

さらに、「ゲイ・バイセクシュアル・レズビアンや同性愛について、これまでの学校教育で習いましたか」では、625人(75.6%)が「まったくない」と回答していた。