Futures Japan HIV陽性者のためのウェブ調査

調査結果

1.あなたご自身のこと

分析対象件数

HIV Futures Japanプロジェクトにより実施された「HIV陽性者のためのウェブ調査」に寄せられた回答総計1,095件のうち、不正回答データを除いた有効回答は917件。うち4件は国外在住者による回答であったため除外し、日本国内在住のHIV陽性者913人による回答を有効回答と判断し分析対象とした。なお、このセクションでは、一部、無回答を除いた割合を表記している。

性別・セクシュアリティ

性別は男性が95.8%、女性が3.7%であった他、その他0.2%、答えたくない0.1%という回答も含まれた。セクシュアリティはゲイ・レズビアン(同性愛者)が78.6%、バイセクシュアル(両性愛者)が10.5%、ヘテロセクシュアル(異性愛者)が8.7%であった(図1-1)。

年齢

回答者の年齢は、最年少は20歳、最年長は70歳であり、平均年齢は38.1歳(標準偏差8.1)であった。年代別に見ると、30歳代が41.0%ともっとも多く、ついで40歳代34.1%が多くなっていた(図1-2)。

図1-1 セクシュアリティ(%、n=913)
図1-1 セクシュアリティ(%、n=913)
図1-2 年代(%、n=913)
図1-2 年代(%、n=913)

居住地・婚姻状態・同居者・学歴

回答者の居住地は鳥取県を除く46都道府県にまたがり、上位5都道府県は東京都29.9%、大阪府14.2%、愛知県6.6%、北海道4.5%、神奈川県4.4%で、関東地方と近畿地方であわせて7割近くとなった(図1-3)。地域は中心市街地または郊外住宅地が多く、全体の95.7%を占めた。

図1-3 居住地(%、n=913)
図1-3 居住地(%、n=913)

HIV陽性であることを理由とした引っ越し経験は「ある」人が7.8%、「ない」人が91.9%であった。「ある」と回答した回答者の引っ越し回数は1回~4回であった。

全体の85.9%が独身(未婚者)であり、46.5%が一人暮らしであった。

在学中、中退を含む最終学歴は、大学44.4%、高等学校25.0%、専門学校18.2%であった。

HIV陽性者を対象としたアンケート調査の協力経験

HIV陽性者を対象としたアンケート調査協力経験の有無(図1-4)は、ある39.3%、ない60.6%であった。あると回答した者のアンケート経験回数は1回から20回までで、1回が30.2%、2回が29.6%、3回が17.9%であった(アンケート調査協力経験がある358人で集計)。

図1-4 HIV陽性者を対象としたアンケート調査協力経験(%、n=913)
図1-4 HIV陽性者を対象としたアンケート調査協力経験(%、n=913)

本調査を知ったきっかけは、HIV陽性者向けのSNSで見た25.0%、インターネット上のブログや掲示板を見て知った22.2%、Twitterで知った16.6%、医療関係のスタッフから口頭で教えてもらった10.8%などであった。アンケートに用いたインターネット端末は、自分の所有するパソコン55.5%、スマートフォン31.8%、タブレット型端末(iPadなど)6.6%が多かった。

就労とくらしむき

仕事の有無を見ると、有職者は77.5%、休職者は3.8%、無職者が18.5%であった(図1-5)。働き方については、正規社員・職員が43.8%、パート・アルバイトが10.4%、臨時・契約・嘱託社員/職員が9.5%であり(図1-6)、職種別にみると専門職・技術職(医師、看護師、介護福祉士、弁護士、教師、技術者、デザイナーなど専門的知識・技術を必要とするもの)が27.5%、次いで事務職(企業・官公庁における一般事務、経理、内勤の営業など)が18.8%、サービス職(理・美容師、料理人、ウェイトレス、ホームヘルパーなど)が10.2%であった。

就労者のうち、障害者雇用について回答のあった735人について見ると、現在の就労が障害者雇用枠ではない人は86.1%、最初から障害者雇用枠で雇用されている人は9.5%、最初は一般雇用枠であったが、今は障害者雇用枠にカウントされている人は4.4%であった(図1-7)。

図1-5 就労の有無(%、n=913)
図1-5 就労の有無(%、n=913)
図1-6 働き方(%、n=913)
図1-6 働き方(%、n=913)
図1-7 障害者雇用枠での就労かどうか(%、n=735)
図1-7 障害者雇用枠での就労かどうか(%、n=735)

自身の就労による収入で生計を立てている回答者が80.2%であり、2012年の収入は100万円以上~300万円未満が31.8%、300万円以上500万円未満が30.4%であった。現在の暮らしの状況については、大変苦しい15.9%、やや苦しい35.8%、ふつう36.6%、ややゆとりがある10.1%、大変ゆとりがある1.5%であり、今後の生活に対する経済面での不安や問題については、おおいにある56.8%、少しある34.9%、あまりない7.4%、全くない0.7%という結果となり、大多数の回答者が現在の生活に対する困難や、経済的な不安を抱えていることがうかがえた。

本調査対象者の位置づけについての検討

本調査の分析対象913人は、平成26年エイズ発生動向委員会報告(1)で発表されている国内のHIV陽性者累計23,303人の約3.9%にあたる。
厚生労働省の調査(2)における2012年までの年齢別HIV陽性者数の累計と比較すると(図1-8)、本調査においては10代の回答者は確認されず、20代および60代が少なく、40代が多いという特徴が見られた。

図1-8 年代 (%、無回答を除く)
図1-8  年代 (%、無回答を除く)

またセクシュアリティにおいて、バイセクシュアル(両性愛者)、ヘテロセクシュアル(異性愛者)の回答が得られたのも本調査における特徴と言える。

HIV陽性者の居住地について厚生労働省の調査(3)を参照したところ、関東・甲信越49.0%、近畿20.9%、東海12.3%、九州7.9%という結果であった。本調査での回答者の居住地を同様にブロック分けしたところ、関東・甲信越44.2%、近畿22.7%、東海10.7%、九州8.1%となっており、概ね似た分布であった。

HIV陽性者を対象としたアンケート調査には、初めて参加する回答者が多かった。調査を知ったきっかけでは、HIV陽性者向けのSNSやTwitter、インターネット上のブログや掲示板といったウェブをきっかけとする回答が多い一方で、医療機関のスタッフや友人や知人などから口頭で教えてもらった、Futures Japan調査のフライヤー・チラシで見たという回答も少なからず見られた。

また、「HIV陽性者の生活と社会参加に関する調査」報告書(4)では、現在の就労状況と職種、および最終学歴(在学中、中退を含む)に関する調査が実施されている。それによると、就労状況は「主に就労している」が72.7%、「就労していない」が23.5%であり、また職種では専門・技術職が26.4%、サービス職が12.6%、事務職が18.1%となっている。就労率が70%を超える点、職種においては生産現場職や運輸・保安職に比しホワイトカラー系の職種が多いという点で本調査結果は類似していた。最終学歴(5)においては大学39.6%、高等学校29.9%、専門学校16.5%と報告され、本調査結果(大学44.7%、高等学校25.2%、専門学校18.3%、無回答を除く907名で集計)と近い分布になっている(図1-9)ものの、今回調査のほうが若干高学歴な層にアクセスした可能性が示唆された。

図1-9 最終学歴(在学中・中退を含む)(%、無回答を除く)
図1-9 最終学歴(在学中・中退を含む)(%、無回答を除く)

セクション3でも述べるが、HIV治療を目的とした通院先はACC(エイズ治療・研究開発センター)・ブロック拠点病院・中核拠点病院のいずれかが60.4%、それ以外に通院しているものが32.1%(上記3つ以外のエイズ治療拠点病院21.7%、エイズ治療拠点病院以外の病院1.4%、エイズ治療拠点病院かどうか不明の病院0.6%、診療所・クリニック6.6%、その他1.4%、わからない0.6%)であった。よってACC・ブロック拠点病院・中核拠点病院ではない医療機関に通院している回答者を一定数把握した初の調査ともいえる。

以上をまとめると、①HIV陽性者対象の質問紙調査に初めて参加する者が過半数以上であること、②30-40歳代回答者が比較的多いこと、③若干高学歴であること、④ヘテロあるいはバイセクシュアルの人が2割を占めること、⑤ACC・ブロック拠点病院・中核拠点病院ではない医療機関への通院者を300人近く捕捉していること、これらが今回の回答者の属性の特徴といえるだろう。

(1) 厚生労働省エイズ動向委員会 感染症法に基づくHIV感染者・エイズ患者情報 平成26年3月30日現在のHIV感染者及びエイズ患者の国籍別、性別、感染経路別報告数の累計

(2) 厚生労働省エイズ動向委員会 平成 24(2012)年エイズ発生動向-分析結果-
(図:日本国籍HIV感染者報告数の年齢別、性別・感染経路別内訳および日本国籍AIDS患者報告数の年齢別、性別・感染経路別内訳をもとに全体平均を算出した)

(3) 厚生労働省エイズ動向委員会 平成26年5月発生動向報告(表3:HIV感染者及びAIDS患者の都道府県別累積報告状況をもとに、HIV感染者とAIDS患者のデータを合算した)

(4) 生島嗣、若林チヒロ.平成21年度厚生労働科学研究費補助金(エイズ対策研究事業)地域におけるHIV陽性者等支援のための研究 HIV/エイズとともに生きる人々の仕事・くらし・社会 「HIV陽性者の生活と社会参加に関する調査」報告書

(5) (表:性別教育歴をもとに、全体平均を算出した)